五里霧中2008/08/28 22:59

夕方、スタンチョンをはずしに山の牛舎へ向かう。

曲がりくねった山道を登るごとに、霧が濃くなっていく。

峠の頂上辺りでは、対向車のライトは白濁し、にぶい光の玉となった。

牛舎へつづく小道へと、左に折れて車を進める。

ふと、前方に茶色い動物を発見。

(犬にしてはずんぐり太い尻尾・・・ははん、狸だな)

狸はしばらく車を先導するように走り、茂みの中に飛び込み、ぱっと姿を消した。

目の前には、霧の厚いベールが垂れ下がっている。

後漢の張楷は、道術によって5里にわたる霧を起こしたという〔五里霧中)。

霧の先はよもや、狸が作り上げた異界ではあるまいな、と自分の妄想に思わず苦笑する。

一本だけある外灯を頼りに、牛舎にたどり着く。

車の外に出たとたん、じっとり湿った空気が肺に流れ込む。

クオンクオン・・・。牛舎の天井では、大型ファンが重い空気を、いつもよりけだるい音を立ててかきまわしている。

スタンチョンのレバーに手をかけると、手前の牛達が驚いたように大きく目を見開いて、おかるを見た。

牛に声をかけようかと思った。が、そそくさと車へ戻った。

アクセルを踏み込みながら振り返ると、霧にとっぷり飲み込まれそうな牛舎が見えた。

外灯を頼りに、家へとつづく道路へ向かう。

霧の中を抜け出だし、やっと日常の感覚を取り戻した。