2007/06/22 21:19

「蛍見に行くべ」

晩御飯を食べ終わると、そうべえに、誘われる。

去年までは喜んでついてきた娘も、バラエテイー番組のほうが良いらしく、知らん振り。

今夜もおかるとそうべえ、二人きりのデートになった。

お寺の前に行くと、家族連れが一組。聞けば、ここから車で30分ほど離れた町からわざわざ来たという。

男の子の手には、蛍の入ったビニール袋が握られていた。蛍がぽおと、青みがかった黄色い光を放つ。ちょっぴり、苦い気持ちがした。

次に車で向かったのは、山の中。

「猪、でてこねべか?」「でるべな」「こわ・・・」

そんな会話を交わすうちに、車が、山の中の棚田の前で止まる。

山の中に、ゲゴ、ガガガ・・。かえるの声が幾重にもこだまする。

目の前には、蛍の乱舞。夢幻の世界だった。

おかるは、童心に返って蛍を追いかけた。両手で包み込み、一匹捕らえる。

手の平の隙間からぽお、ぽおと洩れる、蛍の光。

蛍は、つつつっとおかるの手のひらから這い出し、人差し指の先まで伝っていった。

「あ・・・」

一瞬のうちに、蛍は光の点に姿を変え、やわらかい光の軌跡を描いて、空高く上っていった。